ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
つぶやかれた言葉で脳内シナプスが瞬く間につながり、跳ね起きた。
相手が誰か、わかったから。
無我夢中でスマホを奪い、強制的に受信を切る。
「……切ってよかったのか?」
「え、えぇ。別に。ただの友達ですから、後でかけ直します」
「ただの友達、ね……」
訝し気な視線を見つめ返せる自信がなくて、とりあえず膝をつき、床に散らばった財布やポーチをそそくさとカバンに放り込んでいく。
「あの、とにかくここで同居はできません。とりあえず今日は元のアパートに帰り――」
「あぁそういえば、織江の派遣会社ってどこだっけ?」
「え?」
振り仰ぐと、腕を組んだ彼がふてぶてしい笑みで見下ろしていて……嫌な予感がした。
「もしオレから逃げるなら、監督責任を問おうか。シェルリーズで逆ナンされた、あの夜のこともぶちまけて?」
「そんな、ひど……っ」
ガバッと立ち上がって悲鳴みたいに叫んだが、「それが嫌なら、諦めろ」と取り付く島もない。
「ま、今の所は無理やり襲うつもりはないから安心していい。といってもあまり気が長い方ではないし。同居はせいぜい利用させてもらおうかな?」
「っ……」
言葉もなく立ち竦む私を楽し気に眺めてから貴志さんは踵を返し、ドアの向こうへ消えていく。