ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
パタンとドアが閉まる音が響くや否や、腰が抜けたみたいにその場でへたり込んでしまった。
同居が、決まってしまったらしい。
どうしてこんなことに……
――あの夜から、織江のことが頭から離れない。
もつれにもつれた思考回路の奥で、無意識に再生されてしまう言葉。
ジワリと沸きそうになる歓喜を胸の奥に閉じ込めるように、私は両腕を身体に回してきつく抱きしめた。
違う。カン違いしちゃダメ。
彼はこの身体を気に入ってくれただけ。
好きだとか、付き合いたいとか、そういうことじゃない。
だから、都合のいい女にならなれるかもしれないけど……
やっぱりそれは無理だろう。
もし関係を続けて、戯れにでも彼が私にさらに興味を持ってしまったら……最悪だ。すべての計画がめちゃくちゃになる。
それだけは、避けなくちゃいけない。
つまり……絶対に、二度と彼と寝てはいけない。
彼とのセックスにもう興味はない、ってふりを貫く。
彼がこのゲームに飽きて、私をこの部屋から追い出したくなるまで。
そんなこと、私にできるんだろうか……
心もとなさを覚えながら弱弱しいため息を吐き、再び手の中のスマホへ目を落とした。
耳をすますと、辺りはシンとしている。
貴志さんはもう自分の部屋に入ったみたい。
だが念には念を入れ、電話ではなくメッセージアプリを起動。“S”宛てに文字を打ち込み始めた。
【先ほどは、電話に出られなくてすみません。実はトラブルがありまして、しばらくお会いすることが難しく……】