ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「掃除はハウスクリーニングの会社と契約してますので、食事の用意をお願いするんです――彼女の手料理、食べたいでしょ?」
なんかラスト、ガラリと口調が変わったような……。
「は、い?」
ギギギ、と油切れのロボットみたいに彼女へ顔を向けると、小悪魔めいた美貌がにんまりと微笑んでいるではないか。しまった、と思った時にはもう遅い。
「ね、山内さんも自分のことを住み込みの家政婦って考えてみて。特に遠慮なく同居できるんじゃないかしら」
「や、や、あのっちょ、ちょっとそれは――」
「いいな、それ。お願いできるか?」
抗議の声にかぶさったのは、嬉しそうな貴志さんの声。
「夕食は外で食べることが多いけど、そういう時は連絡するし。できる範囲で構わないから。もちろん材料費は払う」
「わぁいいじゃなーい、副社長の食事管理は私の懸念事項だったのよ。放っておくと、エナジーバーで済ませようとするような人だから。山内さんが協力してくれるなら、こんなにありがたいことはないわぁ」
美形2人が笑顔で畳みかけてくる様は、なんだか妙な迫力があって、私は言葉を失ってタジタジ後ずさるばかり。
確かに、家賃を払えたら、とは言ったけど、まさかこんな展開になるなんて……
「あーよかったよかった! 一件落着ね。ふふ、あとはお若い2人に任せるわ~」
呆然としている間に、意味不明な台詞を残して高橋さんが「じゃ」と部屋を出て行く。るんるん、と弾むような足取りで――
「っく、くく……」
押し殺した笑い声が聞こえ、振り返ると可笑しそうに肩を揺らした貴志さんがデスクからこっちを見上げていた。