ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「彼女とオレの間に恋愛感情はないって、これで完全に信じたか?」
「はぁ……そのようですね」
確かに、あれは完全に面白がってた。
彼のことが好きなら、あんな風には言えないだろう。
私は読み間違えたらしい。
「で、本当に作ってくれるのか? あぁもちろん、どうしても料理は嫌だ、でも家賃が払えなくて心苦しい、ってことなら、いってらっしゃいとおかえりなさいのキスでチャラ、ってことでも構わないけどな?」
ひぃっじょ、冗談じゃない!
「わ、わかりました、お食事作らせていただきますっ。ただし、そんなに凝ったものは作れませんよ?」
もはや拒絶する気力もなく、脱力したまま適当にこくこくと頷く。
「そうか、本当に助かる。オレはどうも料理だけは苦手で。だからキッチンにはロクなものが……はっ、何もないのか。用意しなくちゃいけないな。任せておけ、さっそく手配する」
同居解消が遠のいたことショックを受けていた私は、ウキウキした口調で続いた後半部分を聞き流してしまった。
そして、その日の夜――
タワマン内部のスーパー(セレブ御用達のオーガニック食品専門店)から食材や調味料が続々届いたところまではよかったのだが、なぜか最新調理家電の数々――圧力鍋、スチームクッカーに始まり、フードプロセッサー、ノンフライヤーにホームベーカリー、etc.……――も運び込まれ……
料理研究家、を通り越して調理家電研究家のキッチン、みたいな様相になってしまったその場所に立ち尽くし、遠い目をすることになるのだった。