ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「ん、もういいかな」
独り言ちて、IHの加熱を止める。
私が立っているのは、南向きのリビングを臨む明るいキッチンだ。
背後の棚にズラリと並んだ最新調理家電は、残念ながらまだ半分以上使えていないが、もはや諦めた。
そもそも前のアパートはガス調理だったから、IH自体が私にとっては最新家電に等しい。火加減がなかなかつかめなくて、毎回悪戦苦闘したりして。
まぁ、一応ちゃんと料理らしいものが提供できているし、よく頑張ってるんじゃないかと思うことにしてる(レベルが低いことはちゃんとわかっている)。
「……ぉはよ、いい匂いだな」
眠そうなあくび混じりの声に視線を上げる。
ドアから現れたのは、Tシャツとスウェット地のズボンという“ゆるい”ファッションの貴志さんだ。私も同じような格好にエプロンを付けているのだが、どうしてこんなにも醸し出す雰囲気というか、纏う空気というか、何かが違うのだろうか。
「おっ、おはようございます。ちょうど起こしに行こうかと思ってました」
毎日のことながら、彼を目にしただけで勝手に踊りだしてしまう鼓動。
それを何度も使いまわしたポーカーフェイスでひた隠し、当たり障りのない笑顔を向ける。
すると何気ない足取りでキッチンに入って来た彼は、ごく自然な、流れるような仕草で私の腰を抱き寄せ――
「じゃ、待ってればよかったな。織江をベッドに押し倒せたかも」
ちゅ、っとつむじへ、甘やかすようなキスを落とした。