ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「っ! べ、ベッドまで行くわけないじゃないですかっ。ドアをノックするだけです!」
「ふぅん。中まで入ってくれてもいいけど、織江なら」
赤くなった私の頬をサラリと撫で、その手はすぐに離れていく。
「カプチーノでよかった?」
「はっ、はい……」
エスプレッソマシンに入れるカプセルを選んでいる彼に背を向け、はぁっと呼吸を整える。
初日みたいに押し倒されたりキスされたり、という極端な事態こそないものの、代わりに始まったのが揶揄うような軽めのスキンシップで……。すぐに解放されるから、抗議するタイミングもつかめず困ってる。
ストイックな会社での姿を見てる分、こんなことする人なんだ、ってギャップがすごくて、最初はめちゃくちゃ戸惑ったっけ。
どうやら彼は、クールそうに見えて、一旦自分のテリトリーに入れた相手は徹底的に構いたがる、そんな人だったらしい。
対応に迷っているうちにいつの間にかスキンシップにも慣れてしまったけど……これって彼のペースに巻き込まれてる、ってこと? 徐々に揺さぶって籠絡して、落ちてきたところをペロっと食べてやろうとか、そういう作戦なんだろうか。
「あぁもう……ほんと、困る」
早く彼が、新しい恋人を見つけて私に飽きてくれればいいのに、と思う。
私に飽きて、私をここから放り出してくれたら。
もちろんその時は……、一人になってから号泣するんだろうな。