ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「現地とのやり取りも、もう山内さん抜きには考えられないね」
「あの訛りの強い中国語、私たちじゃホントお手上げだったわ」
「そうそう、全然標準語に聞こえないんだもの」
「いっそのこと正社員になっちゃえばいいのに。中途採用、山内さんなら余裕で突破だろ?」
どんどん返答に困る方向へ会話が進み始めたところで、貴志さんがパンパンと手を叩いた。
「ほら、そろそろ戻って自分の仕事を進めてくれ。次のミーティングは来週だからな、時間はないぞ」
私たちはその言葉に促されるようにしてガタガタと立ち上がった。
最後のチェックと戸締りを引き受けた私は、ぞろぞろと会議室を出ていくメンバーを見送って、ふぅっとため息をついた。
思い巡らすのは、申し訳ないが会議の内容じゃない。
貴志さんのこと。
今日もホントにカッコよかったんだもの。
惚れた欲目、ってヤツではない。
彼はこういう交渉の場に出ると本当に神がかった才能を見せるのだ。
特に今回みたいに相手が外国人の場合、言葉以上に習慣や考え方の壁が大きく、意見をすり合わせるのはすごく難しい。例えば、面子を潰されることを嫌う中国の人に対して、真正面から批判するのはNG、とか。
そこを彼の場合、一歩も引くことなく巧みに言いくるめ……もとい柔軟な折衝でいつの間にか自分の要求を通してしまうのだ。
この新プロジェクトのお手伝いをするようになってからそんな場面に何度も遭遇した私は、そのたびに圧倒され、魅了され……
本音を言えば、これから先もずっとずっと、才能豊かな彼が周囲に認められ、輝かしい実績を積み上げていく姿を近くで見つめていたい。
でも私は――
と、ままならない現状への不満をゆるゆるかぶりを振って紛らわせ、忘れ物がないかもう一度室内をチェック。
それから、会議室の外へ出た。
「山内さん」