ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
え? と顔を上げた先、廊下をこちらへやってくる貴志さんがいて、私は鍵をかけようとしたポーズのまま、きょとんと二度見してしまった。
「どうされたんですか? 何か忘れ物ですか?」
何も残ってなかったけどな、と室内の様子を思い返していると――
「ちょっと付き合え」
「え、きゃっ」
そのまま強引に背中を押されて、会議室にもう一度戻らされてしまう。
抗議する間もなかった。
ドアが閉まりきるより早く、背後から抱きしめられてしまったから。
「な、何するんですかっ?」
さすがに予想していなかった展開で、自分の胸のあたりで交差した彼の腕を困惑気味に軽く叩いて抗議する。
そんな私の頭上に降ってきたのは、「あー」と間延びした音だった。
「やっと充電できた」
「?? え? 何? なんのことですか?」
「いや……ご褒美」
「ご褒美??」
「会議が上手くいったから」
「はぁ……でもそれは、私じゃなくて、メンバーの皆さんが……と、とにかく放してくださいっ社内でこんなこと――」
「じゃあ、家だったらしてもいいのか? 昨夜みたいに」
耳のすぐ傍で甘えるみたいに言われて、う、と言葉に詰まった。