ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
ピザトーストとスクランブルエッグ、野菜スープ、という週末限定の洋朝食を食べた後、貴志さんが運転する高級外車に乗り込んでいざ出発。
期待通り、助手席からの眺めは最高だった。
外の景色が、というわけじゃない。
何しろ少し目を動かせばすぐに、カジュアルスタイルの貴志さん――シンプルなグレーのVネックシャツに白パンツ――の華麗な運転テクが漏れなく視界に入るのだ。そりゃ絶景に決まってる。
しかもこの車は、マニュアル車で。ハンドルさばきはもちろん、呼吸するように軽々とこなすギアチェンジは、もう教習所のお手本に使ってほしいような鮮やかさ。
買い物の行き帰りとか何度か車を使った際に見てはいたけど、こんなにじっくりとっていうのは初めてで、できればガン見したいくらい。まぁさすがにそれをやったら引かれてしまうだろうし、頑張ってチラ見に留めておいたけれど。
「――ところで私たち、どこに向かってるんですか?」
余計なことを考えないようにと、窓から重たげな灰色の雲を見上げつつ聞いてみた。
車は高速道路に入っている。どうやら割と遠くに行くみたいだな、と地図を思い浮かべていたら、ようやく「鎌倉」と具体的な地名を教えてもらえた。
「鎌倉? ……大仏を見に行くんですか?」
「大仏? あぁ、それは考えてなかったな。見てもいいけど」
リラックスした様子で答える彼に、私は首を傾げる。
「大仏じゃなかったら、何のために……?」
鎌倉といえば、おしゃれな雑貨とかカフェとかよく雑誌でも特集されてるっけ。彼もそういうの、興味があるんだろうか――と尋ねるものの。
「さぁな?」
返ってくるのは、つれない返事だけ。
でもまるで悪戯を計画中の子どもみたいにご機嫌な彼を見たら、文句も言えなかった。
――好きな相手だからびっくりさせたいし、喜ばせたいってことよ。
ふと浮かんだノリちゃんの言葉をパパっと全力で打ち消して、とりあえずドライブを楽しもうと肩の力を抜いた。