ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
鎌倉市内に入ると、やはり日曜日ということもあり車の量がぐっと増えた。
駐車場が見つかるだろうかと若干心配していたら、やがて車は、とある住宅の敷地内に入って停車。
そこは観光バスだって停まれそうな広い駐車場で、その向こうには、鬱蒼と茂る庭木に囲まれるようにしてかなり大きな平屋造りの邸宅が見てとれる。
「貴志さん、ここは……」
「うちの別荘」
「べ、別荘!?」
「っていうか、もともとは祖父さんの実家。今はみんな都内に住んでて使ってないんだけど。観光シーズンにホテル代わりに使ったり、自由にしていいって言われてる」
そうだった、この人御曹司だった、とあっけにとられてその趣のある建物を見上げていたら、いつの間にか降車していた彼が私側のドアを開けてくれていた。
促されてついて行くと、邸宅とは真逆の方向へ向かっている。どうやらここは目的地じゃないらしい。
駐車場として貸してもらうだけで、あとは歩いていくようだ。
確かに今日の時間貸しパーキングはどこもいっぱいかもしれないな。なるほど、と彼に続いた私は――「ほら」と手を差し出され、ぽかんとした。
こ、これは、えっと……?
困惑の表情を浮かべる私を見下ろして、彼はニヤリ。
「はぐれるといけないだろ」って半ば強引に手を持っていかれた――ばかりでなく、いつの間にか指と指が絡んでて、唖然とした。
これは、なんていうか……恋人繋ぎ、というやつ?
「え、あの貴志さんっ? っ、私汗かいてて……」
思いがけない行動に動揺してしまい、どうでもいい情報までさらけだして解こうとするが、彼は全く応じてくれない。
「拒否権はなし。家主の命令は絶対、だったよな?」
「え、あの、……はぁ」
そりゃまぁもちろん、家主命令を持ち出されなくても拒否するつもりはない。
だって実はめちゃくちゃ嬉しいし……。
舞い上がる気持ちをぐっと抑え、しぶしぶ(という風を装って)そのまま手を預けて歩き出す。
こんな風にドキドキしてるのは、きっと私だけなんだろうな――と、切なく仰ぎ見た彼の耳がほんのり赤く染まっているように見えたのは、きっと気のせいだろう。