ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

体温がダイレクトに伝わる密着具合に指先を震わせつつ、なんとかカメラを切り替える。
「じゃ、じゃあ撮りますよ?」

「んー待った。オレが持った方がいいな。ちょっと貸せ」

彼へと奪われたスマホが、斜め上から私を見下す。
その画面には、頬を赤く染めた自分がしっかり映っていて……あぁなんて顔してるの、私!

「もうちょっと寄って。入らない」
「ははいっ」

パシャパシャっ……

触れてる部分が燃えるように熱く感じて、ドキドキが止まらない。

この時間が、永遠に続けばいいのに……。

どうしよう。
こんな幸せを知ってしまって、私はこの人を、ちゃんと諦めることができるんだろうか……?

絶望的な思いでもう一度カメラを見上げたところへ、ポツリと最初の雨粒が落ちてきた。


雨脚はすぐに強くなり、私たちは急いで室内へ。
ちょうど料理も出来上がったため、シェフ直々のサーブのもと、贅沢なフレンチのフルコースをいただいた。

オードブルや冷製スープだけじゃなく、魚料理(ポワソン)肉料理(アントレ)にまでコリンキーやズッキーニ、白ナスといった旬の鎌倉野菜がたっぷりと使われていて、どれもまるで宝石みたいに彩鮮やか。
一口一口に感動してしまい、『オレに構わず飲め』と貴志さんが勧めてくれるワインの酔いも相まって、ハイテンションで料理を楽んでしまった。

後から考えると、無意識に“これが最後のデートだ”“楽しまなくちゃ”って思っていたのかもしれない。自分がそれほどアルコールに強くないことも忘れていつになく飲みすぎてしまったのは、それが原因だろう。

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