ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

RRRR……

その着信があったのは、夜9時過ぎ。なんとか仕事のキリがつき、副社長室から出ようとちょうどカバンを手に取った時だった。

相手は侑吾で、オレはドアへ向かう足を止めることなくスマホを取り出した。

「なんだよ侑吾?」

『よかった、君が出てくれて。まだ会社ですか?』

なんとなくデジャヴめいた嫌な予感を感じつつも、嘘をつくわけにもいかず「そうだけど」と答える。

『お願いします、ちょっとだけ助けてもらいたいんですよ』

「助けろ? また例の尻ぬぐいじゃないだろうな」

断わろうとしているのを察知したのか、相手はオレに口を挟む隙を与えないまま内容を話し始めてしまった。曰く、モデルの中条瑠衣がホテルのバーで泥酔して、オレを呼んでいるらしい。

「なんでオレなんだよ?」

『僕が仕事で行けないって言ったら、じゃあ代わりに君が来てくれるなら帰ってもいい、と言ってるんですよ。ホテル側からクレームに近い連絡があって』

「仕事が終わってから、お前が行けばいいだろう。オレは今日大事な用事が――」

『お願いします、これから会議なんですよ。何時までかかるかわからなくて』

真夜中の会議――あぁアレ(・・)か。
侑吾が関わる極秘任務のことを思い出して、舌打ちが漏れた。元メンバー(・・・・・)として、協力するのは仕方ないが、よりによってなぜ今日……

盛大にため息をつき、「貸し一つ、大きいからな」とせいぜい恩を売って、通話を切った。

早く向かえばそれだけ早く送り届けて、まだ真夜中前、彼女が起きているうちに帰れるかもしれない。
腕時計にチラリと目を落としたオレは、慌ただしく副社長室を後にした。


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