ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
運ばれてきた琥珀色の液体を機械的に喉へ流し込んでいると、横から熱っぽい視線を感じた。
「前から思ってたんですぅ。村瀬さんて、お顔、キレーだなーって」
頬に細い指が触れ、嫌悪感が沸いた。
「わ、スベスベ! 女優さんみたーい♪」
はしゃぐ声と共に、バニラの香りがぐっと強くなった。
「……ねぇ聞いてくださいよぉ、ひどいんですよ霧島さんって。あたしのモデル仲間にも手を出してたんです。ショックだったぁ」
なるほど、荒れているのはそういう理由か。
でも仕方ない。侑吾にとって、彼女以外の女はすべて同じだ。
まぁこの子も同じだろうが。
オレでも侑吾でも。名前を売るため、仲間内でマウントを取るため、利用するのにちょうどいいスペックを備えているというだけ。
「……ねぇ、村瀬さぁん。今夜は帰りたくないんです。つらくってぇ……」
濡れた大きな瞳が縋るようにオレを見つめ、官能的に艶めく紅い唇が甘ったれた音を紡ぐ。これが“あざとい”というやつかと、苦笑が漏れた。
そこでふと、織江に声をかけられたのも同じようなシチュエーションだったなと思い出す。
ちょうど侑吾に頼まれて、中条瑠衣をシェルリーズのスイートに送り届けた夜だった。すぐに帰ると外で張り込み中の記者に見つかってしまうかと思い、そのまま上階にあるバーで時間をつぶしてて……。
――お一人ですか? 隣、座っても構いません?
織江のことも最初はその手の女かと思っていた。
副社長としてのオレを利用しようとしているのかと。
でも違った。
彼女は、そういう女じゃなかった。
手料理を褒められると嬉しそうに頬を緩め、手を繋ぐとわかりやすく照れる。
物静かなんだが、しゃべるのが嫌いってわけじゃなく、些細なことでもツボに入るとよく笑う。
仕事も家事も手を抜かない努力家なのに、決してそれをひけらかすことはしなくて……