ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
織江の顔が見たかった。
顔を見て、今すぐ「好きだ」と抱きしめたかった。
彼女じゃなきゃダメだ。
カッコ悪くても、みっともなくてもいい。この気持ちを伝えて、ずっと傍にいて欲しいと伝えたかった。
すぐに信じてくれなくても構わない。
他に想う相手がいてもいいじゃないか。
振り向かせればいいだけだ。
そう考えると、いてもたってもいられなくなった。
こんなところで何をしてるんだと、自分に腹が立った。
「愚痴りたいだけなら、他をあたってくれないか。こんな風に巻き込まれるのは迷惑だ。君のマネージャーに連絡しておくから、迎えにきてもらえ」
「え、ちょ、ちょっと村瀬さんっ」
やはり酔っ払いは演技だったらしい。
一転、焦ったように伸びてくる手を無視して、立ち上がる。
前回の時念のためにと聞いておいた番号がスマホに残っているはずだ、と考えながら入口へ足を向けた――
「きゃっ」
小さな悲鳴が背後で響き、振り向いたオレの視界にこちらへぐらりと倒れてくる中条瑠衣が映った。
躓いたのだ、と理解するより早く身体が動いて、彼女の身体を抱きとめる。
瞬間。
パシャパシャっ
覚えのある微かな音が耳を掠めた。
シャッター音だ。
反射的にそちらへ顔を向けると、カメラを手にした男が立っていた。
見覚えのある顔だった。
ニヤリと笑ったそいつは、そのまま踵を返し脱兎のごとく駆けていく。
やられたな、とオレは苦く舌打ちし、腕の中の女を冷えた目で見下ろした。