ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「っ、貴志、さんっ……」
お願いだから、これ以上私を振り回さないで……
「実は今夜はもう一つ、頼みがある」
「た、頼み……?」
まだ行くなんて言ってません、と抗議しかけた私だったけど、至近距離で覗き込んだ彼の真摯な瞳に気圧されるように口を噤んだ。
「酒は飲まないで欲しい」
お、お酒?
「パーティーの後で、この1週間ずっと考えてたこと、素面でちゃんと伝えたいと思ってるから。鎌倉の夜、なぜ手を出さなかったのかということも含めて。だから――頼む」
ひたと見据えられて、頼む、なんて迫られて。
ゆるゆると絆されてしまうのは、惚れた弱みってやつだろう。
冗談っていう雰囲気でもないし……
もしかしたら、彼の方から同居解消を提案されるのかもしれない。
1週間考えたけど出て行ってくれないか、って。
そういうことなら、私にとっても好都合、よね。
パーティーとか恋人役とか、かなり抵抗はあるものの、周囲にしてみたら、“また新しい相手に乗り換えた”“今度はどのくらい持つかな”、くらいの認識だろう。
ちゃんとお礼を言ってから出て行きたかったのも事実だし……。
「わかり、ました」
逡巡の後ようやく首を縦にすると、「そうか、ありがとう!」と嬉しそうに表情を崩す貴志さん。
もうあと何回、この笑顔を見られるんだろう。
「じゃあ行こうか?」
切なさと共に思いを巡らせつつ、差し出された彼の手へ自分の手を乗せたのだった。