ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

ホテルの中に入って行くと、感嘆の声がさざ波のように広がった。
みんな足を止め、私たちを振り返っていく。

もちろん、私は単なるオマケ。彼ら、特に女性客が恍惚とした表情で見つめているのは貴志さんだ。気持ちはよくわかる。容姿といい佇まいといい仕草と言い、全部が全部ため息が出そうな美しさなんだもの。

隣を歩いてる私のことなんて、散々に言われてそう……。
穏やかじゃない視線をあちこちから感じるたびに逃げ出したくなったけど、ニセモノとはいえ彼の恋人役。
みっともない所だけは見せられない、と意識的に背筋を伸ばした。


案内された会場は、何百何千というクリスタルが眩しい輝きを放つ広大なホール。ギャリオンホテルの中で、一番大きい場所に違いない。

そこには、私のドレスが霞むくらい着飾った人たちがぎっしりと集い、キャビアとかフォアグラとか高級食材を惜しげもなく使ったフィンガーフードが贅沢に並び……何もかも眩暈がするほど煌びやかで、まさに別世界の様相だった。

自慢じゃないけど、社長令嬢とはいえ、こういう場所は初めて。
どうやって振舞ったらいいのか全くわからず、喉がカラカラでドリンクを取りに行きたいのに、それもできない。ただただ大人しく目立たず、くっついているだけの私。それでもやはり一緒にいるのが貴志さんだと相当目立つらしく、ひっきりなしに挨拶にやってくる参加者からの視線が痛い。

「久しぶりだね貴志君、君がこういう場所に顔を出すとは珍しい」
「お父上は今日はご一緒じゃないんだね」
「村瀬さん、意地悪しないで教えてくださいな。そちらの幸運なお嬢さんはどちらのご令嬢?」
「ついに年貢の納め時、というやつかな?」
「うちの娘がさぞがっかりするだろうな。君に決まったお相手がいたと知ったら」

紹介された彼らは上場企業の社長や役員クラスの人ばかりで、笑顔がどんどん引きつっていくのがわかった。

唯一の救いは、こういう場所に縁がなかったせいで、私が一星百貨の社長の娘だと気づく人が誰もいない、ということだろうか。
これがパーティー好きのキララだったら、いくらメイクやドレスで印象を変えたところで一発でバレていたのは間違いない。

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