ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

会社に着いたオレは、エレベーターで上へ向かう。

いつも通り、まず役員室へと続く秘書室のフロアに足を踏み入れ――瞬間、なぜか空気がざわついた気がした。
その場にいた全員が一斉に動きを止め、オレを凝視してくる。

「おはよう」

いや、いつも注目はされるんだが……なぜか今日の視線は、どこか違う、不穏な雰囲気を孕んでいるような気がしてならない。気のせいか?

疑問を感じつつも、視線は自動的に愛しい人を探し始める。
ところが、彼女の姿はどこにも見当たらない。
あれ……会議でも入っていたか? 昨夜のラインにはそんな話、何も書いてなかったけどな。気を付けて帰ってきてください、ってそれだけ。

すぐに会えるからと、今朝に限って彼女にメッセージを送っていなかったことを後悔していると。

「おはようございます、副社長。出張、お疲れさまでした」

ユキがこちらへやってくる。
彼女の顔もどこか固いような……なんだ、どうした? トラブルか?

「副社長、少々お話が。歩きながらでいいので、聞いていただけますか?」

言いながら促され、「あぁ」と一緒に歩き出す。

「何かあったか?」

「あったどころじゃないわっ」

小声でぴしゃりと言ってオレを睨んでくる従姉に、頭の中のハテナが増殖していく。なんだよ、オレが悪いのか?

「トラブルがあったなら、メールでもなんでも、連絡してくれればよかったのに」

「起こったのは今朝、ついさっきなのよ。きっと、あなたが今日から出社するって知ってたんだわ」

「知ってた……って、誰が?」

きょとんとするオレを冷たくスルーして、ユキはフロアの片隅に設けられたミーティングルームのドアを少々乱暴にノックした。

おいおい、一体何なんだ?

抗議する間もなかった。


ドアは内側から勢いよく開いた。


「村瀬副社長っ! お帰りなさぁい! お待ちしておりましたぁ。お会い出来て、キララ感激♡」

胸元を強調した白のブラウス、歩きにくそうな花柄のタイトスカート、骨折しそうなピンクのハイヒール、といったもろもろが視界に飛び込んできて、オレは一瞬部屋を間違えたかと目がテンになった。


……こいつ、誰?


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