ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

せめて経験者を寄越してくれと、さっき派遣会社に問い合わせてはみたものの、聞いてもいないキララの優秀さをアピールされて終わった。これはもう、決定事項らしい。身勝手にもほどがある。

周囲に迷惑をかけることなく辞めたかったのに、ノリちゃんや高橋さんにも合わせる顔がなくて、本当に申し訳なくてたまらなかった。


「だいたい、派遣会社の人間はどうした? こういう場合、事前の説明があってしかるべきだろう?」

案の定、貴志さんもいつになく苛立っているらしい。

「申し訳ありません。事情がありまして、急遽の交代となりました。担当者からは後日ご挨拶を――」
「事情とやらを聴かせてくれなければ、納得できるわけない」

言いながら、私の前に立つ貴志さん。好きだと告げてくれたあの夜と同じ、真摯な眼差しに射抜かれて、身動きができない。

「……織江?」

ふとトーンが柔らかく、甘やかなものに変化した気がした。
困惑しながらも私を理解しようとしてくれる彼の気持ちが嬉しくて、固めたはずの気持ちもぐらぐらと揺れてしまう。

「……たか、」
「村瀬さんから離れてよ、お姉ちゃん!」

私をドンっと突き飛ばし、キララはうっとりと貴志さんを見上げた。

「あたしたち、もうすぐお見合いするじゃないですかぁ。だからもっとお互い知り合った方がいいし、少しでも近くにいたいなってお父さんにお願いしたんです。あ、もう婚約者みたいなものだし、キララって呼んでくださいね♡」

「オレと、見合い? ……織江じゃなくて?」

その台詞と視線で理解できた。
お見合い写真を、ついに社長から受け取ったらしいと。おそらくこの出張中に。

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