ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
心の中で必死に念じている間にも、普段とは明らかに違う彼の態度に気づいた周囲がざわつき始めた。
「何あの子……」
「何があったの?」
「副社長の知り合い?」
「え、織江、と副社長……?」
ノリちゃんまで怪訝そうに私たちを交互に見ていて、頭の中は真っ白。
何か気の利いた挨拶でも言えればいいのに……
カラカラに乾いた口は、全然役に立ちそうにない。
どうしよう。
どうしよう。
重たい空気の中、無限ループのように同じ言葉がリフレインする。
やがて。
気が遠くなるほど長く感じた数秒が過ぎ――ようやく、その形のいい唇が何かもの言いたげに開く。
「…………」
私はただ硬直したまま、その口元を凝視した。