ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「私は、それを踏まえたうえで、あのタイミングで彼女に声をかけるのはベストではないと判断致しました。副社長はどう思われますか?」
「それ、は……」
ぐ、と口を閉じる。
……悔しいが、正論だったからだ。
朝の通勤ラッシュで大混雑のエントランスゲート、知ってる顔もちらほら見えたあんな場所で直接声をかけたら、混乱を招くことは必至。
マスコミ連中も、まだこっちを注目していたし……
だいたい、どうせ同じフロアで働いてるんだ。
冷静に考えれば、話す機会はいくらでもあるというのに。
そう考えると確かに、マズかったかもしれない。
いつもの自分らしくない行動だった、かも。
でもあの時は、彼女以外目に入らなくて……
「そんなにヨカったわけ? 彼女」
唐突に、砕けた口調が聞く。
小悪魔という表現がぴったりの従姉のカオに戻った秘書が、それはそれは面白そうにこっちを見ていて、オレはゲンナリと天井を仰いだ。
「……ユキ、言い方」
「だって、もっと話したいと思ったんでしょ彼女と。初めてじゃない? 貴志が特定の女の子に対して、一晩以上の興味を持つの」
「人のこと、どっかの女好きと一緒にするな」
顔をしかめて見せると、誰を指しているのか理解したのか、きゃっきゃっと年上らしからぬお気楽な笑い声が響いた。
くそっ……この分だと、当分このネタで弄られそうだ。
あぁほんとに失敗だった。
マスコミからの問い合わせを受けた彼女に問い詰められ、あのモデルとの間に何もなかったことを説明しようとして――その夜一緒だった相手のことまで話してしまったのは。