ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

うちで働き始めてからずっと、こいつは社内でオレを見かけるたびに突撃してきて、帰宅時は自分の車で尾行してくる。しかも見合いは断わっているというのに、婚約者と言いふらしてるとか。常識なさすぎだろ。
仕事ができるできない以前に、人間としての資質を疑う。いい加減、鬱陶しい。

見合い相手として選んだ親父の顔を立てるつもりで、これまでは一応目をつぶってきたが……今日は気持ちに余裕がなく、虫の居所が悪い。さて、どうしてやろうか……


「山内さん、副社長はお忙しいのよ。仕事の相談なら、私が聞きま――」
「いや、構わない」

「は?」
怪訝そうな顔をスルーして、山内妹へ目をやった。

「今日はこれから飲みに行こうと思ってたんだが、一緒に来るか?」

「ええっ連れて行っていただけるんですかっ!?」

歓喜する彼女へおざなりに頷いてやり、場所を譲る。
山内妹は、ユキへわざとらしく得意げな視線を向けてから、いそいそと後部座席へと消えていく。

「ちょっと、何考えてるのっ?」

オレだけじゃなく、ユキも相当フラストレーションが溜まってるようだ。

先週末の顛末をオレがはっきり説明しないから、余計に。
というより、情けなくて言えないだけなんだが。

オレは宥めるように彼女の肩を軽く叩いた。

「ま、どれほどの覚悟か、見せてもらうさ」

「覚悟、って……何をするつもり?」

訳が分からない、と言う風に眉を寄せる秘書を残して、オレは車に乗り込んだ。

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