ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
社内でも、お父さんに意見した有能な役員や社員がいつの間にか左遷されていた、なんて日常茶飯事だったし、相当なワンマン経営だってことは業界でも知られてる。不満を持っている人だってきっといる、社長令嬢である私になら口を開いてくれる人がいるかもしれないと今井さんに言われた私は、俄然張り切った。ところが――
「結論から言うと、上手くいきませんでした」
確かに、いろいろな不満は聞くことができた。
イベント時に協賛金や社員派遣を強要させられたとか。定期的な接待は当たり前で、お継母さんの誕生日には特に豪華なプレゼントを贈るのが普通だったとか。人事に口出しされたっていうところもあった。
ただ、協賛金や接待自体は適正に申告されていれば違法とは言えないし、接待の席で現金の授受があった、みたいな証拠もつかめない。
私がそう説明すると、貴志さんはそうだろうなと唸って腕を組んだ。
「将来の取引への影響を考えたら、全部正直には話せないだろうしな」
「はい、調査は足踏み状態でした。しかもそんな折……」
順調だった私の口が、唐突に重たくなる。
そう、そんなタイミングで発覚したのが、佐々木君の浮気。キララとの婚約。それだけでもキツかったのに社内で誹謗中傷まで流れてしまい、追い詰められた私に不正を追及できるだけの余裕はなくなっていく。
不思議なことに、今井さんの方からもその頃連絡が途絶え、私たちの調査はうやむやなまま立ち消えになってしまった。後から話を聞いてみると、ちょうどその頃上層部から別の取材を命じられ、彼の方もそれどころではなかったらしい。
「……そんな折、プライベートな問題で一星を退職することになりました。疑惑の追及もその時一度、諦めました」
なんとか言葉を濁しつつ簡単に話をまとめると、バンッと座卓を叩く音が響いた。お父さんだ。