ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「そこまでだ! 調べても何も出てこなかった、それが真実だ。いい加減、気は済んだだろう」
「そうですわ! この子はよくこうやって突飛もないことを言い出すんです。ですから申し上げたんですわ、こんな頭のおかしな娘より、キララさんの方がいいですよって! なんといってもこの子はお稽古ごとの先生方から大層褒められ――」

「申し訳ないが」と村瀬社長にぴしゃりと遮られ、2人はぐ、っと口を閉じた。

「彼女の話はまだ終わっていませんよ。最後まで聞きましょう」

「織江、続けてくれ。君は一星を辞め、うちにやってきた。それは2年も前のことだろう。どうして今また同じ問題に向き合おうと思ったんだ?」

促すように問う貴志さんを見つめ、一星を離れてからの日々を思い返す。

あの時、確かに私は不正の追及を完全に諦めていた。というか、もう何もかもどうでもいいと思っていたのだ。キララと佐々木君が継ぐであろう一星なんて、どうなろうと知ったことかと。
リーズニッポンで働き始める直前には『副社長を落とせ』なんてお父さんに言われたけれど、それも放っておくつもりだった。
あの人のいいなりになるなんて絶対嫌だったし。

新しい会社(リーズニッポン)での日々は、とても充実していた。
やりがいのある仕事を任されて、一目惚れした貴志さんの傍にいられるのだから。会社に行くのが楽しいと思ったのは、生まれて初めてだった。

でも……次第に未知数だった貴志さんの有能さが広く知られるようになり、お父さんからの“落とせ”プレッシャーが激しくなってくる。
この分だと遅かれ早かれ、お見合いを強引にセッティングしてきそう――と危ぶんだ私は、彼への未練に決着をつけようとダメもとで誘い、彼と一夜を共にする。

まさに、ギリギリのタイミングだった。
それからすぐ、お父さんに呼び出され、貴志さんとのお見合いを告げられたのだ。

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