ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
――ようやく、先方が見合いを前向きに考えると返事をくれてな。ご子息に話をしてみてくれるそうだ。
――まぁあちらはお忙しい方だし、実際に会うのはまだまだ先になるだろうが。一応心づもりはしておきなさい。文句はないだろうな?
私とお見合いなんて、結婚なんて、とんでもない。彼はこんな鬼の棲家に関わってはいけない人だ。彼の輝かしいプロフィールに、一点の曇りもあってはならない。
ならば、こちらのスキャンダルを早々に暴露して、お見合いの可能性を潰してしまうしかない。
――お久しぶりです。突然ご連絡してすみません。
私は今井さんに連絡し、もう一度調査をやり直そうと持ち掛けた…………なんて裏の事情は、もちろん本人を前に言うつもりはない。
こみ上げる想いを押し殺し、私は殊勝な面持ちで口を開いた。
「罪の意識に耐えられなくなったんです。不正が行われていることを疑いながら知らないふりをするのは、不正に加担したのと同じじゃないか、と。それに、偶然ですが新しい切り口が見つかったせいもあります」
「新しい切り口?」
村瀬家のみならず、うちの家族も興味を引かれたようだ。
胡散臭げに見つめる視線を無視して、私は頷く。
「知り合いから情報をもらったんです。継母が“栄光コンサルティング”という会社と親しくしているらしいと」
「なっ……」
綺麗にメイクしたその顔が、明らかな狼狽を見せる。
「なんですか、そのっそんな……」
笑い飛ばしたいらしいが、とっさのことで上手くいかないらしい。
「あら、“プラチナ会”で皆さんに散々自慢してたそうじゃないですか。『頼りになる存在』だって」
私が指摘すると、口を滑らせたことを思い出したんだろう。お継母さんはサッと青ざめた。