ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「リアルデイズの記者・今井氏にさらに調べてもらって、いろんなことが明らかになりました。取引業者と一星の間で正規の額から上乗せした見積額がやりとりされていたこと、上乗せ分が業者からコンサル料として栄光に振り込まれ、その後トンネル会社を経由して一星経営陣(両親)へお金が戻されていたこと、講演会の謝礼やご祝儀という名目を使っていたこと、使用したトンネル会社の名前……」

取引業者は不正なリベートだという認識がないまま、栄光にお金を振り込まされていたという。
どうりで3年前、どんなに聞いて回っても何も出てこないはずだ。

「証拠もありますから、警察に提出する予定です。私としては、その前に自首を勧めたいんですけど」

チラリと視線を動かせば、両親は蒼白になった顔を互いに見合わせている。

何か言いたいことはあるらしいが、何を言えばいいのかわからない、という感じ。
もう少し抵抗されると思っていた私は拍子抜けしてしまった。
証拠がある、という一言が効いたんだろうか。


――おめでとう。あなたの予想通りの展開になってきましたね。
――さぁ、どうでしょう。このまま上手くいくといいんですが……
――俺は大丈夫だと思いますよ。

思った通りの結果が出たことには満足だった。
後はこの事実を、どう使うか。

リアルデイズに掲載してもらって世論を動かすという作戦は上手くいかなかったけど、よく考えれば両親が自首してくれた方がいい。
再建の可能性も残されるだろうし、従業員のみんなもそのまま働き続けられるかもしれない。この調査を始めてから、それだけが唯一の懸念事項だったから。

私としては、今日のお見合いが中止になればそれでいいんだもの。とりあえずこの場はここで失礼させてもらって、あとは家に帰って第二ラウンド開始ってところだろうか。これは山内家の問題だし。

なんて考えを巡らせていた私は、「く、っくく……」と響いた奇妙な声に気づいて視線を上げた。誰かが笑ってる……?

全員の耳に聞こえたらしくみんな揃ってキョロキョロと見渡すが、誰も笑っている人はいない――と、そこで貴志さんがサッと立ち上がった。

隣の間へ続く襖を、勢いよく開け放つ。

果たして、そこにはスーツ姿の男が正座していた。
塩沢だった。

< 308 / 345 >

この作品をシェア

pagetop