ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「盗み聞きか? 何者だ、お前」
貴志さんに詰問された塩沢は、不気味な笑みを浮かべたまま慇懃に頭を下げる。
「塩沢光男と申します。山内耀司氏の秘書を務めさせていただいております」
「おぉ、塩沢! 聞いていたのか、とんでもないことに――」
「織江お嬢様」
自分の主の言葉をぴしゃりと遮った彼は、私へと視線を向けた。
「一つ疑問があるんですが。今おっしゃった諸々が事実だと、どう証明するおつもりですか?」
「証拠があると言ったでしょう。正規の見積額をやり取りしたメール、上乗せ分を含めた発注書、ペーパーカンパニーから出された領収書とか……」
今井さんから送られたデータを見せるため、スマホを取り出そうとする私を、彼は手を挙げて止めた。
「それが事実だと、どう証明するおつもりかと伺ったんですが」
「……え?」
彼の指が私のスマホを指していることに気づき、意味を咀嚼する間空白が生まれる。
歪んだ輝きにギラつく小さな目が、どうにも気味が悪い。
私は間違っていないはずなのに、不安でたまらない。
訳もなく身震いする私へ、塩沢は「困った方だ」と肩をすくめてみせた。
「キララさんが跡を継ぐのが気に入らないからと言って、こんな汚い罠に嵌めようとするなんて」
「わ、罠?」
何を言ってるの……?
「リアルデイズの今井、と言いましたか。彼が私の所へ告白しに来ましたよ。良心の呵責に耐えかねてね。あなたから偽の記事をでっちあげるように頼まれたと」