ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
い、今井っ?
今井、って言った?
思わず腰を浮かしかけたのだが、スピーカー設定になったスマホから聞き覚えのある声が響き、そのまま固まってしまった。
『いえいえ、副社長。お気になさらず』
ほ、本人だ……間違いない。
嘘でしょう? ほんとにリアルデイズの今井さんと電話がつながってるの?
「じゃあここで話してもらえるか。誰に何を頼まれたのか、その結果何が起こったのか」
塩沢から目を離すことなく貴志さんが静かな調子で聞くと、『はいはい』と諦めたような口調が応じた。
『もう全部洗いざらいお話しますよ。塩沢は俺の大学の同期でしてね、その頃から何度か金を借りてまして……』
それから今井さんが語り出す。
雇い主の娘、つまり私が心の病を患っていて、両親が脱税に手を染めているという妄想に取りつかれて困っていると塩沢から相談されたこと、このままだとフェイク情報を流してしまうかもしれない、その前に止めたいから協力してくれ、その暁には借金を帳消しにするからと頼まれたこと。
今井さんの役割は、私に協力するふりをして監視し、調査の進み具合の情報を塩沢に流すことだったという。
『何か月か過ぎた頃、織江さんが問題を起こしたとかで会社を辞めて調査がうやむやになって。正直ホッとしましたよ。その頃には、俺だって彼女が病気なんかじゃないってわかってましたしね。なのに、それから2年が経とうという頃、織江さんからまた突然連絡があって……』