ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

仕事の途中で抜けてきたんだろうか。
そこにはスーツ姿の貴志さんが立っていた。

今日ここに来ることは伝えていたものの、平日だし、忙しい彼に無理強いはできない。寂しいけど一人で、と諦めていたのに。

「来てくださったんですね、お忙しいところすみません」

声を弾ませる私の頭をポンと叩き、彼が苦笑する。

「そりゃ来るだろう、婚約者の大事な人の命日なんだから」

こ、婚約者……
まだ慣れないそのワードに、トケてしまいそうな顔を引き締めるのが大変だった。

「ほら、早くお義母さんに紹介して」
「ははいっ」

コクコク頷いて、“山内美月子”と書かれた墓石の前を譲る。

「お母さん、こちらは村瀬貴志さん、私の……ええと、その……命の恩人です」

迷いつつ選んだ言葉に、隣にある身体がぴくっと反応する。

「あのな、そこは婚約者です、とか、愛するダーリンです、とか、他にいろいろあるだろう」

だ、ダー……リン?
いや、それは無理。

「でもその、命の恩人であることも事実ですし」

照れ隠しでへらっと笑う私のおでこを、「誤魔化すな」と彼の指が弾いた。


あの日佐々木君が狙っていたのは私だった。
逮捕された本人が警察でそう証言したんだから間違いない。

キララが彼との婚約破棄にあたり、いい加減なことを吹き込んだのが原因らしい。私が彼を取り戻そうと企んで嫌がらせしてくる、もう耐えられないから別れたい、とか。本当にとんでもない妹だ。

貴志さんが身を挺してかばってくれなかったらどうなっていたか。その時の恐怖を思い出してブルっと震え、貴志さんと一緒にもう一度手を合わせた。

お母さん、彼はほんとにほんとに、素敵な人です。
今でもやっぱり、私にはもったいないと思うくらい……

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