ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
極力柔らかな声音を意識して尋ねつつソファへ腰を下ろし、隣をポンポンと叩く。座れ、という意図を汲んだ相手は、緊張の面持ちを崩さないまま浅く腰を下ろした。
「そ、そのぅ……副社長もすでにご承知の通り、私はこの年まで男性経験がありませんでした。それで……今度お見合いをするので、その前になんとか初体験だけでもと」
……は? 見合いだって?
なぜか舌打ちしそうになって、咳払いで誤魔化した。
「……それで? どうしてオレだったんだ?」
「それ、は……」
その眉が困った様にしおしおと下がる。
「と、特に理由はありません。誰でもよかった、と言いますか。副社長なら、経験豊富そうだし、お一人と決めた女性もいらっしゃらないように見えたので……あの、でももしもお付き合いされてる方がすでにいらっしゃったなら、高橋さん、とか……知らなかったとはいえ本当に申し訳なくお詫びを――」
モゴモゴよくわからなかった後半部分はおいておくとして、聞き捨てならない台詞があった気がする。
「へぇ……誰でもよかった、ね」
信じられない。
未だかつて、そんな理由で求められたことは一度もないぞ。
ふつふつとこみ上げるオレの苛立ちを妙な方向へカン違いしたらしく、彼女は焦った様に両手を振り回した。
「ごご、ご心配いただかなくても、責任取ってくれとかお金くれとか、騒ぐつもりは毛頭ございません! ピルを飲んでおりますし、なんならご不安でしょうから申し上げますが、ちゃんと先週生理もきました。確実に妊娠はしてないので、ご安心くださいっ」
一息に言い切ると、再びガバッと立ち上がる。