雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
夕方5時近くに藤原さんが手配してくれた温泉旅館に到着した。
親戚が経営していると聞いていたから、家族経営しているような小さな旅館を想像していたけど、三階建ての大きな旅館だった。

フロントでチェックインすると出て来た鍵はちゃんと二本あった。

もしかしたら雨宮課長と同室になるかもしれないと、淡い期待を抱いていたけど、さすがにそれはなかったよう。

藤原さん、二部屋手配してくれたのか。そうだよね、男女が同じ部屋に泊まるとかってありえないよね。恋人でも夫婦でもないし、上司と部下だもんね。

「これは中島さんの鍵」

チェックインの手続きを終えた雨宮課長が部屋番号のキーホルダーが付いた鍵をくれた。そこには302号室とあった。せめて課長と同じ階だと良いなと思いながら、課長の手の中にあるキーホルダーの部屋番号を見た。

301号室。

えっ、もしかして課長とお隣さん?

壁に耳をつけたら課長の気配とか聞こえたりする?

「こっちの部屋の方が良かった?」

じっとキーホルダーを見ていると課長に訊かれた。


「いや、あの、お隣さんなんですね」
「みたいだね。壁が薄かったら中島さんの鼾が聞こえてきそうだね」
「鼾かきませんから!」
「新幹線では凄い鼾だったよ」

うそ……。

私、今朝の新幹線で鼾かいて寝ていたの?

どうして雨宮課長にはカッコ悪い所ばかり見られちゃうんだろう。

「というのは冗談。可愛い鼾だったよ」

クックックと雨宮課長が笑う。
なんか今日は雨宮課長にからかわれてばかり。
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