雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
「佐伯さんは大バカです。拓海さん、物凄く怒っていました。自分勝手過ぎるって。私もそう思います。佐伯さんのした事は相手の奥様を苦しめる事なんですよ。結婚していた佐伯さんならよくわかるでしょう? それにこの事がマスコミに知られたら、女優を辞める事になりますよ。私、佐伯さんの出た映画とかドラマ好きなんです。まだまだ佐伯リカコをスクリーンで見たいんです。私のように思うファンの人たちはきっと大勢います。なんでこんなバカな事をしたんですか?」

家庭のある人と付き合って、子どもまで身ごもって、その上心中未遂までしていたなんて、大スキャンダルだ。おそらく日本の芸能界にいられなくなる。

「あの人の事が好きだったんです。全てを失うってわかっていても引き返せなかった。彼の奥様に心労をかけた責任は取ります。今日で女優を辞めます。こんな私が人様の前に立つのはさすがに申し訳ないですから」

えっ!

「この後、記者会見を開いて、その事を発表するつもりです」
「辞めてどうするんですか?」
「さあ」

佐伯リカコが笑う。

「さあって。きちんと考えているんですか?」
「中島さん、心配してくれるんですか?」
「心配になりますよ」
「優しいんですね。大丈夫。パリで静かに暮らしますから」
「パリ?」
「姉がいるんです。姉に全部話したら、おいでと言ってくれて。それでパリに行く事にしました」

確かにその方がいいかも。
日本にいては静かに暮らせないだろうし。

「記者会見を開く前に中島さんにも謝りたかった。実は一時間前に彼の奥様にも会ったんです。水をかけられましたが、二度と彼に会わないと約束して、何とか許して頂けました。これで堂々と引退宣言できます」

佐伯リカコが微笑む。これからマスコミの嵐の中に行くとは思えないほど、晴れやかな顔だった。女優を辞める事に未練はないのかもしれない。

「佐伯さん、私と拓海さんに迷惑をかけたと思うのなら慰謝料として、欲しい物があります」

「欲しい物?」

佐伯リカコがパッチリとした目をさらに大きくした。
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