雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
番外編

1

2月14日。
拓海さんと一緒に暮らして初めて迎えるバレンタインデー。

バレンタインデーなんて映画のイベントに利用する以外で意識した事はない。久保田が欲しいと言うから義理チョコぐらいは用意してあげていたぐらい。

去年も久保田に義理チョコをあげただけだった。

でも、今年は……。

うふふ。拓海さんとバレンタインデーデート。

会社帰りに丸の内のイルミネーションを歩いて、東京タワーから夜景を見て、で、東京タワー近くの夜景の綺麗に見えるホテルに泊まって……。

うわっ、楽しみ過ぎる。

「奈々ちゃん、俺もう出るよ」

スーツの上に黒のロングコートを羽織り、ダークブラウンの鞄を持った拓海さんがリビングに入ってくる。

今朝も完璧にカッコイイ。なんでこんなにスーツが似合うの! コートも鞄も拓海さんが身に着けるアイテムは全てお洒落だ。

でも、パジャマ姿も可愛いんだよね。偶に寝ぐせがあったりして。あの緩い姿からキリッとしたビジネスマンに変身する所を見る度にときめき過ぎて心臓が弾けそうになる。

今朝も拓海さんに惚れちゃう。

「奈々ちゃん、見過ぎ」

じっと拓海さんを見ていると、笑われた。
この二ヶ月、毎朝同じ事を言われている。

「だって、スーツの拓海さん、カッコイイんだもん」
「それはどうも」

チュッと拓海さんが唇にキスしてくれる。
朝のキスはコーヒーの味がして好き。

「じゃあ、先に行くね」
「拓海さん、今夜の予定忘れないでね」
「うん。楽しみにしてるよ。奈々ちゃん企画のバレンタインデー」
「絶対に残業にならないでよ」
「定時に帰れるように頑張るよ。奈々ちゃんこそ残業になるなよ」
「大丈夫。根回ししてあるから」

玄関まで行って、拓海さんを見送る。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

もう一度、拓海さんがキスをしてくれる。
このキスが私たちの最後のキスになるとは思わなかった。
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