雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】

2

【Side拓海】

「拓海さん、奈々子を連れ帰った方がいいんじゃないんですか?」

奈々ちゃんを寝かせて寝室からリビングに戻ってくると、奈々ちゃんのお母さんが心配そうに眉を寄せる。

「拓海さんから話を聞いた時は信じられなかったけど、奈々子は本当に記憶がないみたいですし」

はぁ、とお母さんが息をつく。
いつも明るいお母さんが深刻な表情を浮かべているのは胸が苦しい。

「この目で見るまで信じられなかったけど、拓海さんに対してあんなによそよそしくなって……」

お母さんの言うように奈々ちゃんの態度は別人のようによそよそしい。
病室で奈々ちゃんと対面した時は信じられなかった。

何があっても自分の事は覚えていてくれる。そんな風に思っていた事に気づかされる。そんな確証なんてどこにもないのに。

だけど、俺たちが恋に落ちた事を忘れてしまっていても、奈々ちゃんは奈々ちゃんだ。愛しい存在に変わりはない。

「お母さん、普段の生活に戻った方が記憶を取り戻しやすいと主治医の先生もおっしゃっていました。僕に奈々ちゃんを任せてくれませんか? 一緒にいたいんです。生活の面でも、仕事の面でも僕だったらサポートできると思います」

「拓海さん、奈々子によそよそしくされて辛くないんですか?」
「奈々ちゃんと離れて暮らす方が辛いです」

お母さんが「もう、この人は」と言って俺の腕を軽く叩きながら笑みを浮かべた。

「奈々子を想ってくれてありがとう。わかりました。奈々子の事は拓海さんにお任せします。何か手伝える事があったら言って下さいね。オーストラリアから帰って来たら駆けつけますから」

「はい。何かあったらお母さんに甘えます。旅行楽しんで来て下さい」
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