雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
【Side拓海】

お母さんが帰ったあと、寝室に行くと、奈々ちゃんは可愛らしい寝息をたてて眠っていた。

とりあえず奈々ちゃんが帰って来て良かった。

昨日、久保田君から映画館の階段から落ちて、救急車に乗せられたと聞いた時は心臓が止まるかと思った。

後頭部を強打し、その後遺症で一年分の記憶が失われるなんて……。

白いネットで覆われた栗色の頭は見る度に痛々しく感じる。
見た目程、大した怪我ではなく、傷跡も残らないと主治医は言ったが、大切な人が怪我を負ったというだけで、身が切れる想いだ。

代わってやれたらどんなにいいのだろう。

ベッドの端に腰をかけ、時折苦しそうに眉間に皺を寄せる寝顔を覗き込む。
悪い夢でも見ているんだろうか。

「奈々ちゃん、大丈夫だよ。俺がついてるから」

白い頬を撫でてやると、少しだけ険しい表情が緩む。

「……拓海さん」

ラズベリー色の唇がゆっくりと動く。

「……拓海さん」

二度、名前を呼ばれて心臓がどくんっと高鳴る。

今、雨宮課長ではなく、拓海さんって呼ばれた。
奈々ちゃん、俺を思い出したのか?

「どこにもいかないで……拓海さん……」

不安げな声に胸が強く締め付けられた。

「俺はここにいるよ」

ベッドに手をついて額にチュッと口づける。
何があっても離れないという気持ちをこめて。
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