雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
ぎゅっと全身を強張らせると、雨宮課長が「ごめん」と言って、私から離れた。

「奈々ちゃんがうなされていたから、その、安心させてあげようと添い寝を」

雨宮課長の顔が見られなくて、布団の中に隠れた。
会社で顔を合わせていた部署の違う上司が私の添い寝をするなんてありえない。恥ずかしくて、ドキドキして、心臓が疲れる。

しかも、雨宮課長にそうされていたのが、あまり嫌じゃなかった事にも戸惑う。

記憶がなくても、私の中の何かが雨宮課長を受け入れているよう。
それはやっぱり同棲する仲だったから?

「奈々ちゃん、また亀になるの?」

低い声が可笑しそうに笑う。

「今、雨宮課長の顔が見られません。ほっといて下さい」
「奈々ちゃんて、恋愛はかなりの奥手?」

奥手と言われて、かぁっと頭から爪先まで熱くなる。
人の弱点を突くなんて、酷い。

そうよ。奥手なのよ。
初めて男の人とつき合ったのは20歳だったし。それ以降の恋愛はないし。

ああ、もう、こんな事恥ずかしくて言えない。
ジタバタと布団の中で手足を動かしていると、また笑われた。

「ごめん、ごめん。触れてはいけない所だったのかな」
よしよしと、布団越しに背中の辺りを撫でられた。なんか雨宮課長にバカにされているようで悔しい。もう出て行って下さい。そう言おうとした時、ぐぅーと、無視できないぐらい大きな音でお腹が鳴る。

恥ずかしい。これじゃあ、恥の上塗り。

「夕飯にしようか。奈々ちゃん、落ち着いたらリビングに出ておいで」

ポンポンとまた布団越しに優しく私の肩を叩き、雨宮課長は寝室から出て行った。

笑われるかと思ったけど、お腹が鳴った事については雨宮課長はそう言っただけだった。雨宮課長って大人だな。優しいな。なんか、保護されている気がする。
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