雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
「奈々ちゃん、今のは冗談だよ。そんなに眉間に皺を寄せた険しい顔をしなくても」

あははと低く笑った声にドキドキする。

なんか前にもこういう事があった気がするのは気のせい?
記憶の糸口のような物を見つけて必死に辿るけど、たどり着けない。またわからなくなってしまった。

いつになったら思い出せるのだろう……。
雨宮課長の事、思い出したいのに。

「奈々ちゃん、もしかして怒った?」

黙ったままでいると、大きな手が下から伸びて来て、私の頬に触れる。お風呂上りの私の方が体温は高い。ひんやりした雨宮課長の手を感じた瞬間、胸の奥が締め付けられるような切なさを感じる。

熱いものがお腹から喉の奥にまで込み上がって来て、泣きそうになった。
切なくて堪らない。雨宮課長と今、こうしているのが……。

「奈々ちゃん……!」

膝の上にいた雨宮課長が、慌てたように起き上がり、私と視線を合わせる。

「どうしたの?」

喉の奥がつまって声にならない。何でもない。大丈夫ですと言いたいのに、熱いものがポロポロと瞼の奥から溢れてくる。

「奈々ちゃん、俺がイヤ?」

ぶんぶん左右に頭を振ると、「良かった」と言って、隣に座った雨宮課長がほっとしたように眉尻を下げる。

「抱きしめてもいい?」

優しい声で聞かれて、頷くと逞しい腕に引き寄せられる。身を委ねるように雨宮課長の胸に顔を押し当てた。スーツの上着についたアルコールと、煙草と、それから甘い雨宮課長の匂いがする。この匂いが好き。――私はこの人が好き! 雨宮課長が大好き……。

今わかった。切なくて堪らないのは雨宮課長の事が好きだからだ。
< 336 / 373 >

この作品をシェア

pagetop