雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】

3

【Side 拓海】

「今日で2月も終わりだねぇ。拓ちゃん」

会社の喫煙室でぼんやりと煙草をふかしていたら、隣に立つ栗原に話しかけられる。
室内には俺と栗原しかいなかった。

「そうだな」

煙草に火をつける栗原に視線を向ける。

「この間、禁煙したって言ってなかったか?」
栗原が形のいい右眉を吊り上げ、まつ毛の長い目を向ける。

「やめた。やっぱ仕事中は我慢できない。家では吸わないんだけどさ」
あははと栗原がバツが悪そうに笑う。

「でも、一週間に一箱って決めてるから、それ以上は吸っていない」
自慢するように栗原が言う。

「拓ちゃんは、どうなの? 中島ちゃんと付き合い出した時、禁煙するって言ってなかった?」
栗原のやつ、痛い所をついて来る。確かに一時はやめていたが、奈々ちゃんが記憶喪失になってから、自然とまた煙草に手が伸びるようになった。

「家では吸ってない。会社でだけだ」
「ふーん」じっと栗原が見てくる。
「なんだよ」
「中島ちゃん、拓ちゃんの事、思い出した?」
形のいい眉が今度は心配そうに眉頭を寄せる。

事故後に出社した奈々ちゃんの様子がおかしい事に栗原は気づき、俺に奈々ちゃんの体調について訊いて来た。それで記憶喪失の事は打ち明けた。奈々ちゃんが会社の人間に知られたくないと思っている事も伝え、栗原は秘密を守ってくれている。

「残念ながら、まだ」
「相変わらず中島ちゃんに警戒されまくっているの?」
女性目線のアドバイスが欲しくて、先週、栗原に奈々ちゃんに警戒されている事を話していた。

「栗原が言ったように、不用意に近づかないようにしているんだが、先週の金曜日はアルコールが入ってて、つい」
苦笑いが浮かぶ。

「つい何したの? まさか押し倒しちゃった?」

そんな事できる勇気があったら、とっくにしている。
なんて事を言うんだ、栗原は。
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