雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
運転しながら雨宮課長が9月に私と仙台出張に来た時の事を教えてくれた。その時も、仙台駅近くの今日と同じレンタカーのお店でノートを借りたそう。

そんな話を聞きながら、藤原さんが支配人を務める映画館ポールスターに着いた。

「あっ」
二階建ての、くすんだ灰色のコンクリートの建物を見て思わず声が出た。
私が担当する映画『フラワームーンの願い』の中で出て来た映画館がそのままある。ポールスターが映画の撮影場所になっていた事は聞いていたけど、実際に見ると嬉しくて、頬が緩む。

「ようこそ」
映画館から出て来たシルバーヘアのご婦人に声をかけられる。

「雨宮くん、中島さん、お久しぶり」
私たちを見て、ご婦人が微笑む。

「藤原さん、どうも」
私の隣に立つ雨宮課長がご婦人に挨拶をした。
この上品なご婦人が藤原さんか。

「中にどうぞ。実はね、今日は他にもお客様がいるのよ」
藤原さんが唇を上げてフフっと笑う。

他のお客様?
一体誰だろう?

そう思いながら、紅茶の香りがする支配人室に入ると、赤茶色のソファに座って、優雅な仕草で白いティーカップを持つ女性に目が留まる。

……佐伯リカコ。

頭の中にその名前が浮かぶと同時に「リカコ」と呼ぶ低い声が隣から聞こえた。
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