雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
佐伯リカコ。

記者会見で自らの不倫を告白し、昨年10月に女優業を引退した。
『フラワームーンの願い』は彼女のデビュー作で、雨宮課長と出会ったのはその撮影現場だったらしい。

新人女優と新人脚本家だった二人はすぐに恋に落ち、結婚。そして優真くんが生まれ、その優真くんは5歳の時に病気で亡くなり、二人は離婚する。

という話を雨宮課長から聞いたのは、ほんの3日前。

コンビニで雨宮課長にキスをされた日、動画が添付されたメールが届いた。
動画の内容は今は見られない佐伯リカコの女優引退会見の映像だった。

その動画を見て、初めて、雨宮課長が佐伯リカコの恋人のふりをしていた事、二人が友人関係だった事を知った。

動画を見た後は訳のわからない不安で胸がいっぱいになり、気づいたら、佐伯リカコの記事をネットで探し回っていた。

佐伯リカコと雨宮課長らしき人物が抱き合っている写真を見つけた時は心臓が握りつぶされたみたいに痛くなった。

その写真は恋人のふりだと思えないぐらい親密な感じで、会見で佐伯リカコが雨宮課長と恋人のふりをしていたと言っていたのが嘘のように思えた。

疑いたくはなかったけど、雨宮課長が私と付き合いながらも佐伯リカコと二股をしていたんじゃないかと思った。

それで、その夜、雨宮課長から佐伯リカコとの関係を聞き出して、一応、話を聞いて納得したけど……。奥歯に何かが挟まったような気持ち悪さがまだ残っている。それに雨宮課長と少し言い合いをしてしまって、なんというか、今もまだギクシャクしている。

これ以上、気まずくなるのを避けたくて、新幹線でも、車の中でも佐伯リカコの話に触れないように気を配って話していた。

なのに、ここで会ってしまうなんて、神様は意地悪だ。

「お久しぶり」

ワインレッド色のニットワンピを着た佐伯リカコが薔薇色の唇を上げて、私たちに微笑んだ。映画やテレビで見たそのままの美しい顔を見て、美人だと思うと同時に、嫉妬で胸が苦しくなる。
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