雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
「目にゴミが」と言いながら、ごしごし目元を拭い続ける雨宮課長を見ながら、私が記憶喪失になった事で、どれほどの心配をかけているのか気づく。

雨宮課長はいつも私の不安を受け止めてくれていたけど、私は雨宮課長の不安を受け止められていただろうか?

そんな事を考えていたら、ふふって笑ったあとに、佐伯リカコが「確かに、泣かされているのは、中島さんじゃなくて、拓海の方ね」と言った。言われた瞬間、恥ずかしくて、かぁっと頬が熱くなって俯いた。

下を見たまま、前に組んだ指をもじもじ動かしていたら、大きな手がそっと握ってくれる。大丈夫だよって言われたみたいで、さらに心臓がキュンってなる。

「俺は泣かされていない。変な事言うな」
雨宮課長が充血した目を佐伯リカコに向ける。
眼鏡を外した鼻筋の通った横顔が見慣れなくて、ドキッ。

「じゃあ、何? 今の涙は大好きな中島さんと一緒で幸せいっぱいの涙ってわけ?」
「そうだ。大好きな奈々ちゃんと一緒で俺は幸せだ」

佐伯リカコも雨宮課長も『大好きな』って言葉を強調するように言わなくてもいいのに。物凄く恥ずかしいんだけど。

「そうだったの。雨宮くんと中島さんは恋人なのね」
藤原さんにまで言われて、頬だけじゃなく、体中がかあっと熱くなる。

「是非、二人の馴れ初めを聞きたいわ。ねえ、リカちゃん」
藤原さんが佐伯リカコを見る。

「ええ。聞きたいです」

それから四人で紅茶を飲みながら、私と雨宮課長の話になった。
雨宮課長が照れくさそうな表情で、私との恋のはじまりをぽつり、ぽつりと話しだした。

雨宮課長の言葉からは私を大事にしてくれている気持ちが伝わって来て、なんか、聞いていたら、感動で目がうるうるとしてきて、ちょっとだけ泣いてしまった。
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