雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
目が合うと「めっ」って言われた。

小さな子供を叱るみたいに。

ぷっ。

雨宮課長。めって何?

「酔っ払いさん、ほら、青。行くよ」

クスクス笑っていたら、雨宮課長が私の手を握って歩き出した。

骨張っていて、男の人らしい手。

少しだけ冷たく感じるから私の方が体温が高いんだ。

まさか手をつないで横断歩道を渡ってくれるとは思わなかった。

心臓が反応する。

ただでさえ2人きりになった時からドキドキしているのに、さらに鼓動が速くなるから困る。だけど、ずっとこのまま繋いでいてほしい。

そんな私の願いはあっさりと却下される。
横断歩道を渡り切ると雨宮課長は握っていた私の手を放した。

なんか、酔っ払った私を無事に渡らせる為に仕方なく手を握ったって感じがして、ちょっと悲しい。

「うん?」

立ち止まった私を雨宮課長が不思議そうに見た。

「中島さん、どこか具合悪い?」

オレンジ色の街灯に照らされた顔が心配そうな表情に変わる。

雨宮課長はいつだって優しい。

なんだって優しくするのよ。私の事なんて何とも思ってないくせに。

知らない所で助けたりしないでよ。なんで阿久津から守ってくれたのよ。阿久津に睨まれて雨宮課長まで飛ばされたらどうするの。私なんかの為に危ない橋渡らないで。

「中島さん?」

黙ったままでいると雨宮課長がさらに心配そうに眉を寄せた。

「どうして泣いているんだ? また何かあった?」

泣くよ。

だって雨宮課長、優し過ぎるもん。
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