雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
ロビーには劇場スタッフしかいない。

チケット売り場の前も、自販機の前も、エレベーターの前も見たけど誰もいない。だけど、エレベーターが動いている。ここは3階。すぐ1階に着く。

焦る気持ちで脇の階段を駆け下りて、エレベーターホールまで行った。

エレベーターは既に一階に着いていた。開いていた扉がゆっくり閉まる。閉まる直前で扉の所に手をかけて中を見た。――誰もいない。

あの人は、どこ?

ビルの外に出て周りを見回すと紺色のスーツ姿の背中があった。

きっとあの人!

「あ、あの!」

びっくりしたようにスーツの人は立ち止まった。

「ハンカチありがとうございました。お借りしたハンカチ、洗ってお返ししたいので、連絡先教えていただけますか?」

私の言葉にゆっくりと男の人が振り返る。

煌々とした街灯に照らされた端正な顔立ちは見覚えがあった。

雨宮(あめみや)課長」

思わず名前を呼ぶと、メタルフレームの奥の瞳が動いた。
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