雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
水をくれた時に移動した雨宮課長は隣に座ったまま、まだ笑っている。脇腹まで抑えて。

テーブルの向こう側にいた時よりも距離が近い。
気配を感じて鼓動が落ち着かない。

しかも雨宮課長は眼鏡まで外し出した。

外した眼鏡をテーブルに置くと、雨宮課長は人差し指で涙を拭っていた。

初めて眼鏡の下の顔を見る。

素顔だと眼鏡をかけていた時よりも目が大きく見える。まつ毛が長くて、二重のくっきりとした凛々しい目をしている。

素顔もめちゃくちゃイケメンで困る。

「中島さん、最強すぎる。俺、今年一番笑ったかも」

僕じゃなく、俺。

素顔の課長は“俺”って言うんだ。

そう言えば昨日、居酒屋の帰り道も俺って言っていた。

「課長に楽しんで頂けて良かったです」
「猫舌なんだ」
「はい」
「気をつけようね」

小さな子に言うみたいに言われた。頭もポンポンって撫でられた。
完全に子ども扱い。

だけど、頭ポンポンってされた瞬間、キュンとして息が止まった。

そんな事、男の人にされた事ない。

私は可愛げのない女だから。

思えば雨宮課長には変な所ばかり見せている。
映画館で泣いていた所見られたし、パンダ目見られたし、昨日も泣き顔見せたし。今日は釜めしにやけどした所……。

「可愛いな、中島さんは」

課長の言葉が心臓に刺さる。

可愛い? この私が?
< 58 / 373 >

この作品をシェア

pagetop