雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
「人事の桜井さんだったね。こんにちは」

すぐ後ろで雨宮課長の穏やかな声がして、鼓動が速くなる。

今日の課長はネイビーのスーツ姿できっちりとした雰囲気がある。
グレーのスーツもいいけど、ブルー系も似合うな、なんて気を抜くとまじまじと見てしまう。

「雨宮課長も今からお昼ですか?」

桃子が話し続ける。

「そうなんだ」
「課長、よかったら一緒にどうですか?」

桃子が言った。

えー! なんで誘うの!

「いいの?」

「はい。ねえ、奈々子」

桃子がこっちを見る。

ダメなんて言えるわけない。

「あの、はい。雨宮課長、どうぞ」

そう言うしかなかった。

「中島さん、ありがとう。では、お邪魔します」

課長が私の右隣に座る。

体の右側にどんどん熱が集まって、ドキドキする。

エアコンの温度10度下げて欲しいぐらい。

「課長はお蕎麦ですか」

雨宮課長が置いたトレーの上にはざるそばがあった。

「こう暑いとね、さっぱりしたものが欲しくなって」
「今日も30度気温がありますもんね。私も麺ものが良くて、パスタにしちゃいました」

桃子と課長の話を聞いてとんかつ定食を食べているのが、恥ずかしくなる。

いつものクセで“かつ”と名の付く食べ物にしてしまった。
しかもご飯、特盛だし。

桃子みたいにカルボナーラとか、もう少し女子っぽいものにすれば良かった。

「奈々子は暑くても食欲衰えないね」

頬が熱くなった。

桃子のいじわる。課長の前でつっこまないでよ。

もう、この場から消えたい。
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