雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
だけど、意識しすぎて課長の顔が見られなくなる。

こうして隣にいるだけで胸がいっぱい。

課長の落ち着いた声とか、お箸を持つ長い指とか、桃子の話にふふっと笑う横顔とかが、胸を苦しくさせる。

課長は高嶺の花だ。

全てがカッコ良過ぎて困る。

みんながハッとするような美人でもなく、桃子のように可愛い訳でもなく、恋愛経験の少ない私が課長に恋をするのはハードルが高い。

課長には美人で、仕事も出来て、お料理とかも上手で、何でも卒なくこなす人が似合うんだろうな。

私なんかが課長の隣にいたら課長を好きな人たちに怒られそうだ。

仕事で怯む事はないけど、恋愛は怖くて、先に進めない。

好きな人に振り向いてもらうなんて一億年かかっても無理そう。

「課長、ついでなんでお茶取ってきますね。奈々子も飲むよね?」

いきなり桃子に聞かれた。

えっ! 桃子テーブルから離れるの?

私がお茶取りに行く!

と言おうしたタイミングで桃子が席を立った。

当然、雨宮課長と2人きりになる。

ど、どうしよう。何話そう。

話題、話題……。

「中島さん、僕と2人きりになるのが気まずい?」

あたふたとしていたら、感情の読めない低い声が右側から落ちて来た。

「えっ」と右側を見ると、眼鏡の奥の瞳とぶつかる。

「もしかして僕の事、避けてる?」

頬杖をついた課長が探るようにじっとこっちを見た。
< 67 / 373 >

この作品をシェア

pagetop