雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
朝8時に望月先生の家のインターンを押すと奥様が出た。

「朝早くから押しかけてしまい大変申し訳ございません。ウエストシネマズの中島です。本日は奥様とお話がしたくて参りました」

インターホンのカメラ越しに用件を話すが、「お帰り下さい」という声が返ってくる。

「インターホン越しでも良いので話を聞いていただけないでしょうか?」
「困ります」
「お時間を取らせませんので。お願いいたします」
「お帰り下さい」
「奥様は昨日、久保田にからかわれたとおっしゃっていましたが、それは違うのです」


「どう違うんですか?」

話に食いついてくれた。久保田の気持ちを伝えよう。

「久保田は優しく接して下さった奥様に一目惚れしたそうです。それで奥様の事を独身だと思ってしまい、言い寄ってしまったそうです。

実は久保田は今、苦境に立たされておりまして、毎日苦しい思いをしているのです。そんな時に出会った奥様が久保田にとっては女神のような存在だったと、涙ながらに久保田が話しておりました。

軽薄そうに見えますが、久保田はチャラチャラした男ではございません。真剣な想いだったのです。それに女性には不器用で。奥様が初恋だったのです。

どうか久保田を許してやってはくれないでしょうか? もう二度と奥様には近づけませんから」

沈黙が流れる。

どうか、久保田を許して欲しい。

祈るような気持ちでいると、「わかりました。許します」という奥様の声がした。

望月先生の書いた小説の通り、奥様は気持ちの優しい人だ。
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