雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
「中島さん、その言い分はツッコミどころが満載すぎる。どうして元上司のあんたが謝罪しに来るんだ? 久保田君の今の上司が謝罪しに来るのが筋じゃないのか? それに本人はどうした? 今のこの場に久保田君がいるべきではないのか? 総務部のあんたは部外者だろ」

部外者という言葉が胸をえぐる。

望月先生が言っている事は正しい。久保田を連れて来なかったのは失敗だった。久保田を守ってやりたくて、スタンドプレーに出てしまった。

だけど、正論をぶつけられて簡単には引き下がれない。奥様がくれたチャンスを活かしたい。

「総務部におりますが、私も『今日子』の映画を配給するウエストシネマズの人間です。部外者ではございません。

今は社をあげて『今日子』のプロモーションをしている所です。総務部の壁にも『今日子』のポスターがズラっと貼られていて、私はポスターを見るたびに、映画の公開が楽しみで笑顔になります。

試写を見ましたが、先生の小説が忠実に再現されておりました。『今日子』を見た人はみんな幸せな気持ちになれると思うんです。私はそんな幸せ溢れる映画を、望月かおるが書いた最高に胸が熱くなる小説を再現した映画を、世界中の人に届けたいんです。

その為には先生の力が必要です。先生がプロモーションに加わって下されば今以上に注目されます。私は多くの方と大好きな映画『今日子』を分かち合いたいんです。どうか、先生、お力をお貸し下さい」

望月先生がじっとこっちを見る。そして笑みを浮かべた。

「映画会社の人間は青臭いんだな。わかった。チャンスをやろう」

そう望月先生が言った所で、応接室に阿久津と久保田が入って来た。
< 80 / 373 >

この作品をシェア

pagetop