ポケットに未練がましい恋歌を


「いいよ、いいよ。 
 私が勝手に始めたことだし」

大弥君に嫌われたくなくて、必死に物分かりが良い子を演じ続けてみたけれど……

それからも大弥君の態度が、そっけなくなって。

お互いが仕事を終えて帰ってきても

「まだ、夕飯できてないの?
 俺このあと、ライブ音源を作りたいんだけど」

家政婦みたいに、扱われるようになって。


「仕事とバンド活動で忙しいから
 俺はとうぶんの間、バンド仲間のとこに泊まるわ」

ボストンバックに、洋服や日用品を詰めこんだ大弥君は

「俺たちのバンドが有名になるっていう夢
 ひよりも応援してくれてるよね?」

「もちろん誰よりも応援してるよ」

「じゃあ、俺の好きにさせてもらうから」

無愛想な顔で、このアパートを出ていってしまった。


それから1か月、まだ一度も帰ってきてはいない。

スマホにメッセージを送っても、返事は来ない。
既読すらつかない。それが現実。
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