ポケットに未練がましい恋歌を
「うわぁっ! ビビらせんでよ!」
突然、私の耳に突き刺ささった尖り声。
作った笑顔が、瞬間冷凍。
一瞬でひきつっちゃった。
だって……
「あんたが大弥の元カノ?
まだ大弥のアパートに住んでたの?
聞いてないし」
吊り上がった目じり、真っ赤なルージュを唇にのせた美女が
「大弥に頼まれて、楽譜を取りに来たんだけど!」
我がもの顔で、部屋に上がり込んでしまったから。
この人って…確か……
大弥くんのバンドメンバーの、莉緒さんだ!
キーボードをダイナミックにはじく姿を、ライブで見たことがある。
待って、待って!
今、私のことを『元カノ』って言った?
大弥君に頼まれて楽譜を取りに来たのは、事実だよね?
だって……
私と大弥君しか持ってるはずのない、この部屋の鍵を使って
莉緒さんは、部屋に入ってきたんだから。