ポケットに未練がましい恋歌を
大弥君の作曲部屋の棚から、莉緒さんは「これこれ」と楽譜を抜き取った。
「あの……莉緒さんですよね?」
「ねぇ、お水もらえる?
大弥が今すぐ楽譜欲しいってワガママ言うから
アパートの階段を、駆けあがっちゃったんですけど」
高圧的な視線を向けられ、私は動揺してしまう。
LDKに招き入れ、ソファに座る莉緒さんにペットボトルを差し出す。
水を一気飲みした莉緒さんは
「あれが噂の、ウザいポケットね」
リビングの壁にかけてある、ポケット付きのカレンダーを指さした。
「あんたがダイヤに捨てられた理由、教えてあげよっか?」
……えっ?
「あのカレンダー。
毎日、メッセ書かされるって怒ってたよ。
あんたさ、大弥の性格を何もわかってないんだね。
あいつ縛られるの大嫌いじゃん?
ルールとか決め事とか、ウゼーって蹴り飛ばすタイプ。
そろそろ察して、大弥のアパートから出ていってよ」
「それって……大弥くんが言ってたんですか?」
「あいつを名前呼びするのも、やめてくれない?
イラっとくる。今はもう、私の彼氏なのにさ」
……